【2020年版】インコタームズ(貿易条件)とは?新しくなった全11条件も解説!

貿易取引の世界共通のルール「インコタームズ」。
2019年9月10日、国際商業会議所(ICC)から10年ぶりの改定となる「インコタームズ2020」が発表され、2020年1月1日より発効されました。
今回は、インコタームズの基礎知識や各種条件の負担範囲をはじめ、2010版からの変更点を図解つきでご紹介します。
※関連記事:『貿易事務ってどんなイメージ?仕事内容や現場の実情、待遇についてご紹介!』
- 目次
- インコタームズ(貿易条件)とは?基礎知識をご紹介
- インコタームズ2020の全11条件って?
- インコタームズ全11条件における売主・買主の負担範囲
- インコタームズ2010から2020の変更点とは?
- インコタームズの覚え方のコツ
- インコタームズの各種条件や負担範囲をしっかり把握しておこう
インコタームズ(貿易条件)とは?基礎知識をご紹介
「インコタームズ(Incoterms/International Commercial Terms)」とは、国際商業会議所(ICC)が貿易取引における費用負担・範囲などの取引条件を定めた国際規則です。
インコタームズは、世界共通で使われている貿易条件で、「CFR」「DAP」のように、アルファベット3文字で表されるのが特徴です。
貿易取引では、商品自体の代金に加えて「運送料」「保険料」「通関費用」「関税」など、取引に関わるさまざまな費用が発生するほか、輸送時にも多くのリスクがあります。
そのため貿易取引では、その商品を輸送する際のリスクや費用を、誰がどの範囲まで負担するか、インコタームズで明記しています*。
一般的に、売主(輸出者)は商品価格とインコタームズをセットで表示し、買主(輸入者)もセットで確認しています。
今回、10年ぶりに改訂された「インコタームズ2020」のそれぞれの条件について、図解とともに詳しくご紹介していきます。
*インコタームズは、法律や国際協定ではないため、強制力はありません。しかし、輸出入者がお互いの責任範囲を明確にしてスムーズな取引ができるよう、国際的な商慣習として世界中の貿易取引で利用されています。
インコタームズ2020の全11条件って?
インコタームズ2020は、「すべての輸送手段に適した規則」と「船舶輸送にのみ適した規則」の2つのグループに分かれており、合計で11条件あります。
すべての輸送手段に適した規則
EXW | Ex Works | 工場渡 |
---|---|---|
FCA | Free Carrier | 運送人渡 |
CPT | Carriage Paid To | 輸送費込 |
CIP | Carriage And Insurance Paid To | 輸送費保険料込 |
DAP | Delivered At Place | 仕向地持込渡 |
DPU * | Delivered at Place Unloaded | 荷卸込持込渡 |
DDP | Delivered Duty Paid | 関税込持込渡 |
*インコタームズ2020では、2010にあった「DAT」が廃止され、「DPU」が新設されました 。
船舶輸送にのみ適した規則
FAS | Free Alongside Ship | 船側渡 |
---|---|---|
FOB | Free On Board | 本船渡 |
CFR | Cost and Freight | 運賃込 |
CIF | Cost, Insurance and Freight | 運賃保険料込 |
インコタームズ全11条件における売主・買主の負担範囲
条件によって、売主(輸出者)または買主(輸入者)から見た「危険負担の範囲」と「費用負担の範囲」が異なるインコタームズ。それぞれの条件の内容について、詳しく解説していきます。
買主の負担範囲が最も大きい条件
EXW(工場渡)/EX Works(…named place)
EXWは、売主(輸出者)が指定した自社の工場・倉庫などで、商品を買主(輸入者)側に渡し、その後の輸送に関するリスク・費用は、すべて買主が負担する条件です。
EXWでは、商品を引き取るための輸送手段(トラックなど)も買主が手配し、積み込み作業における危険負担も買主側にあります。
輸出国での輸送や通関の費用も買主が負担する条件は、インコタームズ2020のなかでもEXWだけ。ただし、関係省庁からの輸出認可取得や輸出通関時の情報提供に関する助力義務は、輸出者側にもあります。
※関連記事:『【インコタームズ】輸入者の負担範囲が大きいEXW』
輸出地で運送人に引き渡した時点で危険負担が買主へ移転する条件
FCA・CPT・CIPの3つは、すべての輸送手段に適した条件ですが、コンテナでの海上輸送・航空輸送でよく使われているのが特徴です。
FCA(運送人渡)/Free Carrier(…named place)
FCAは、輸出地の指定場所で、買主(輸入者)が指定した運送人に商品を引き渡した時点で、売主から買主へ危険負担・費用負担が移転する条件です。
なお、引き渡し場所が売主(輸出者)の施設内の場合は、売主が積み込みまでの責任を負いますが、それ以外の場所の場合、売主側は荷降ろしなどの責任を負いません。
また、FCAでは輸出通関手続きを、売主が手配して行います。
CPT(輸送費込)/Carriage Paid To(…named place of destination)
CPTは、輸出地において売主(輸出者)が指名した運送人に商品を引き渡した時点で、売主から買主(輸入者)へ危険負担が移転する条件です。
ただしCPTの場合、引き渡し義務が完了した後、指定仕向地までの輸送費用は売主が負担します。また、輸出通関手続きも売主が手配して行います。
CIP(輸送費保険料込)/Carriage and Insurance Paid To(…named place of destination)
CIPもCPTと同様、輸出地において売主が指名した運送人に商品を引き渡した時点で、売主から買主に危険負担が移転する条件ですが、指定仕向地までの輸送費用だけでなく、保険料についても売主が負担します。
なお、CIPも輸出通関手続きは、売主が手配して行います。
※関連記事:『【インコタームズ】コンテナ運送向きの条件FCA・CPT・CIP』
売主が輸入地の指定場所までの危険・費用負担する条件
DAP(仕向地持込渡)/Delivery at Place(…named place of destination)
DAPは、輸入国の指定仕向地において、輸入通関前の商品の引き渡し時に、荷降ろしの準備ができた(船上など)輸送手段の上で、危険負担・費用負担が買主に移転する条件。そのため、荷降ろし以降のリスク・費用は買主が負うことになります。
なおDAPの場合、輸入通関手続きは、買主が手配して行います。
DPU(仕向地荷下渡)/Delivered at Place Unloaded(…named place of destination)
DPUは、輸入国の指定仕向地で、商品の荷降ろしを行った後、危険負担・費用負担が買主に移転する条件です。
荷降ろし以降のリスク・費用を買主が負うDAPとは異なり、売主が荷降ろしまでのリスク・費用を負担するため、DAPよりも売主の負担範囲が広い条件と言えるでしょう。
なお、輸入通関手続きは、買主が手配して行います。
DDP(関税込持込渡)/Delivery Duty Paid(…named place of destination)
DDPは、輸入国の指定仕向地での輸入通関後に、危険負担・費用負担が買主へ移転する条件です。つまり、輸入通関手続きの費用や関税、その他の税金も売主の負担になります。
インコタームズ11条件の中で最も売主の負担が大きく、買主の負担が小さいのが特徴で、輸入国内での通関や輸送費用も売主が負担する条件は、このDDPだけです。
フォワーダーを通しても、売主が輸入国での通関許可を取得できないような場合は、DDPを避けてDAPを適用すると良いでしょう。
※関連記事:『【インコタームズ2010】輸出者の負担範囲が大きいDAT・DAP・DDP』
船舶輸送にのみ適した条件
FAS(船側渡)/Free Alongside Ship(…named port of shipment)
FASは、指定船積港で本船の船側に商品を置いた時点で、売主の引き渡し義務が完了したと見なされ、その時点から一切の危険負担・費用負担が買主に移転するという条件です。なお、輸出通関手続きは、売主側で行われます。
FOB(本船渡)/Free On Board(…named port of shipment)
FOBは、指定船積港で本船の船上に商品を置いた時点で、売主の引き渡し義務が完了したと見なされ、その時点から一切の危険負担・費用負担が買主に移転するという条件です。なお、FOBも輸出通関手続きは、売主側で行われます。
CFR(運賃込)/Cost and Freight (…named port of destination)
CFRは、売主からの商品の引き渡し場所、危険負担の範囲はFOBと同じですが、指定仕向港までの商品の運送費用は売主が負担するという条件です。
なお、貿易実務では「C&F」と表現されることもありますが、契約書などでは正式名称である「CFR」表記を使用しましょう。
CIF(運賃保険料込)/Cost, Insurance and Freight(…named port of destination)
CIFは、売主からの引き渡し場所、危険負担の範囲はFOB・CFRと同じですが、指定仕向港までの商品の運送費用と保険料を売主が負担するという条件です。
なお、FAS、FOB、CFR、CIFの4つの条件は、現在主流となっている「コンテナ船」での船舶輸送ではなく、コンテナでは対応できない形状のものを運ぶ「在来船」での輸送を対象としています。詳しくは、下記関連記事をご覧ください。
※関連記事:『【インコタームズ】船舶輸送向きの規則FAS・FOB・CFR・CIF』
インコタームズ2010から2020の変更点とは?
2020年1月1日に発効されたインコタームズ2020では、前書きで2010との違いについて7つのポイントを挙げています。
ただ、貿易実務上もっとも大きな変更点は、2010まであったDATが削除・廃止され、DPUが新設されたことです。どのような点で変更があったのか、ご紹介します。
DATとDPU条件の違いを図解で説明
DAT(ターミナル持込渡)/Delivery at Terminal(…named place of destination)
DATは、輸入国のターミナル(埠頭、港湾地区の倉庫、CY/コンテナ・ヤード、鉄道の駅など)において、輸送手段から荷降ろしした商品を買主に引き渡した時点で、危険負担・費用負担が買主へ移転する条件。
このDATはインコタームズ2020から廃止され、新たにDPU(Delivered at Place Unloaded)が新設されました。「輸送手段から商品の荷降ろしを行うまでの危険負担・費用負担が売主にある」という点では、DATもDPUも同様です。
しかしDATでは、荷降ろしされる場所が「ターミナル」に限定されていたのに対して、DPUではターミナルに限定されないあらゆる「指定仕向地」の荷降ろしで、この条件の適用が可能となっています。
※参考元:ジェトロ(JETRO)ビジネス短信『国際商業会議所、インコタームズ2020を発表』
インコタームズの覚え方のコツ
ここまでインコタームズ2020の全11条件をご紹介しましたが、実際の現場で使うのはその一部というケースがほとんど。そのため、普段から11条件を全て覚えておく必要はありませんが、貿易の検定試験などを受ける際には、全て把握しておきたいものです。
今回は、インコタームズの覚え方のひとつとして、「インコタームズのアルファベット3文字の略語を元の英語に戻し、その意味を理解する」という方法をご紹介します。
アルファベット3文字が表す元の英語には、「売主(輸出者)側から見た危険負担・費用負担の範囲」を意味していることが多いので、少し深読みして自分なりに解釈してみると、11条件の内容を覚えやすくなりますよ。その一例をいくつかご紹介します。
EXW(Ex Works<指定引渡地>)
Exはラテン語で、“out of”や“from”と同義の「~から外へ」という意味を持ちます。「売主(輸出者)の工場(Works)から外へ出た後のリスク・費用は、売主は負担しない」と覚えると良いでしょう。
CPT(Carriage Paid To<指定仕向地>)
「売主(輸出者)が指定仕向地までの輸送費(Carriage)は負担する」と覚えましょう。
FCA(Free Carrier<指定引渡地>)
「売主(輸出者)が運送人(Carrier)に商品を引き渡すまでの費用は負担するが、引き渡してからは無料(Free)になる」と覚えると良いでしょう。
CIF(Cost, Insurance and Freight<指定仕向港>)
「売主(輸出者)が指定仕向港までの保険料(Insurance)と運賃(Freight)を負担する」と覚えましょう。
※関連記事:『インコタームズの覚え方 ~略語を理解して覚えよう!~』
インコタームズの各種条件や負担範囲をしっかり把握しておこう
商社や貿易関連企業で働いていても、インコタームズの11条件すべてを使用することは稀です。しかし、貿易事務のお仕事をする上で、インコタームズは重要な基礎知識のひとつ。特によく利用するものは、略語の意味や内容について、間違えないようにしっかりと覚えておきましょう。
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