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2019/10/28

国内取引にはない「貿易取引の4大リスク」について

著者: パソナ キャリアコーチ(貿易担当)

国内取引にはない「貿易取引の4大リスク」について

海外企業と商品の売買を行う貿易取引では、国や通貨・制度の違いをはじめ、輸送距離の長さや支払いの時差などに伴う、さまざまな「リスク」があります。

さらに、異なる言語圏・文化圏同士での取引には、危険性や不確実性も伴うため、貿易取引の「リスク」を踏まえたうえで、適切な対応をする必要があります。

そこで今回は、貿易実務初心者に向けて、4つの項目に分けた「貿易のリスク」について、その原因と対処法を解説します。

目次
貿易取引の国内取引との違いとは?
①契約にまつわるリスク
②代金回収リスク
③為替変動リスク
④輸送リスク(貨物の損害リスク)
リスクを想定して、さまざまなリスクヘッジをしよう

貿易取引の国内取引との違いとは?

国をまたいで、商品の売買を行う「貿易取引」。貿易取引では、言語や通貨、商慣習、法制度が異なる国や地域の企業との取引となるため、国内取引とは多くの点で違いがあります。

例えば、「商品代金の支払いをどの通貨で行うのか」「どのタイミングで支払うのか」という考え方も、国や企業ごとで異なるため、貿易取引ではそれらを事前にきちんと定めておかないと、トラブルの原因になってしまいます。

また、取引相手国の政治体制の変更、戦争や内乱、自然災害などによって、国の法規制などが変わってしまい、予定していた輸出入ができずに損害を被る、といった国内取引では発生しないリスクもあります。

今や世界中で貿易取引が当たり前に行われていますが、貿易取引をスムーズに進めるためには、「国内取引との違い」や「貿易ならではのリスク」を十分に理解することが大切です。

①契約にまつわるリスク

①契約にまつわるリスク

今回は、さまざまな貿易取引に関するリスクの中でも、代表的な「4つのリスク」についてご紹介します。まず、最初に挙げられるのが、「契約にまつわるリスク」。

ビジネスにおいて契約(契約書)が大切なのは、国内取引でも同じですが、商習慣の異なる企業同士で売買する貿易取引では、さらに細かい取り決めをした契約が必要になります。大切な注意事項は、輸出入者双方で確認し合うだけでなく、その内容を注文書(P/O)や契約書にしっかりと記載するのが慣例となっています。

<注意事項の一例>
・商品(商材)の価格や品質条件について
・梱包について
・輸送費や貨物保険は誰が持つのか
・納期や支払いをいつ、どのように行うのか など

*商品の品質を重要視する企業ほど、注文書の裏面や別紙に、より細かな取引条件(基本契約書)を記載し、広範囲の取引条件についても契約を交わすことを望むことが多いようです。

海外の国々は契約書をより重んじるケースが多く、「契約書に書いていないこと=約束していないこと」になります。そのため、どれだけ厳密に詰めて契約を交わすかは、リスクを回避するうえでとても重要です。

ただし、貿易取引では、どれだけきちんと契約を交わしたとしても“契約通りに実行されない可能性がある”ということも事実です。

契約通りに実行されない原因には、さまざまなものがありますが、障壁のひとつが、「商慣習・文化」の違いです。契約書でどんなに明文化していても、相手企業との商慣習や文化の違いによって、製造(生産)や梱包、配送を行う現場・現地との認識の齟齬が発生するケースがあるのです。

日本での国内取引の場合、サービスや商品の品質に厳格というのは言わずもがなですが、「貿易取引ではその常識が通じないことがある」ということを、事前知識として知っておきましょう。しかし、取引の経験を積み、相手先企業との関係性を構築していくことで、状況が改善するケースも多いため、やりとりの中でしっかりとした確認や説明を行っていくと良いでしょう。

※関連記事:『売買契約書の「記載事項」についてまとめてみました

②代金回収リスク

②代金回収リスク

では次に、貿易取引における「代金回収リスク」についてご紹介します。

皆さんも日常的に行っているように、買い物で「現金の支払いと商品の受け取りを同時に行う」形式の取引が、最も一般的な売買取引です。しかし、貿易取引の場合、商品の輸送に時間がかかるために「輸入者が代金の支払いと商品の受け取りを同時に行うこと」が難しく、どうしても「前払い」または「後払い」という形をとらなくてはなりません。

「前払い」の場合、輸出者(売主)にとっては、先に代金を回収できるというメリットがありますが、輸入者(買主)にとっては、商品を入手する前に支払わなければならないというリスクがあります。
一方で、「後払い」の場合、輸入者(買主)にとっては、商品の到着・確認をしてから支払えるというメリットがありますが、輸出者(売主)側としては、代金回収が遅れるというリスクが大きくなります。

そこで、これらの代金回収リスクを回避するために作られた貿易特有の決済の仕組み、商慣習があります。代表的なのが、輸出入者の取引銀行に取引の間に入ってもらい、輸入者の取引銀行に支払いを保証してもらう「信用状(L/C)」を使った決済方法です。

※関連記事:『信用状(L/C)の役割を知っていますか?』『信用状(L/C)取引における輸出入者と銀行の関係を理解しよう』『「信用状(L/C)」と「売買契約書」の関係を理解しよう!

また、同じく代金回収リスクを回避するための決済方法として、D/P決済、D/A決済という決済方法もあります。

※関連記事:『D/P、D/A決済の仕組みを理解しよう

③為替変動リスク

③為替変動リスク

貿易取引のお金の関するリスクには、「為替変動リスク」もあります。

異なる通貨を扱う国同士での貿易取引の場合、自国や相手国、または第三国いずれかの通貨で決済を行います。日本の場合、円という独自の通貨を使用しているため、貿易取引では他国の通貨で決済が行われることも多く、その場合、支払いの際は円から他国通貨に、受け取りの際は他国通貨から円に交換します。

ただ、為替相場は日々変動しているため、契約を交わしたときに予定していた為替相場と、実際に交換時の相場が異なることも多く、売買の利益が目減りする可能性も少なくありません。このリスクを「為替変動リスク」と言います。

※関連記事:『【為替相場】TTSレートとTTBレートの違いって?貿易為替について学ぶ!

為替変動リスク対策には、事前に銀行と交換レートを予約し定めておく「為替予約」という方法をはじめとして、いくつか方法があります。詳しくは、以下の関連記事をご覧くださいね。

※関連記事:『為替変動リスク対策の定番「為替予約」の方法を知ろう!』『「為替予約」以外の為替変動リスク対策について一挙紹介!

④輸送リスク(貨物の損害リスク)

④輸送リスク(貨物の損害リスク)

国と国をまたいだ貿易取引は、国内輸送に比べて輸送距離が長く、それに応じて輸送時間もかかります。また、輸送中に事故にあったり、貨物の破損や変質があったり、あるいは盗難の恐れもあるため、国内取引に比べて、より輸送に関するリスクが高いと言えます。

これらのリスクのうち、輸送時の揺れで起きるコンテナ内の荷崩れや箱同士の衝突は、しっかりとした梱包などによって破損を回避することができますが、予期せぬトラブル、自然災害によるリスクについては、事前の対策が難しいのが現状です。そのため、通常輸出入者は、貨物に「貨物海上保険」をかけて、リスク対策をしています。

しかし、保険をかけていたとしても、トラブルの発生時は、納期遅延などの二次的リスクが発生してしまう可能性があります。貿易取引の場合は、輸送距離も長いため、国内取引よりも「輸送リスクが大きい」ということを、しっかりと覚えておきましょう。

※関連記事:『貨物海上保険を申し込むタイミングはいつ?

リスクを想定して、さまざまなリスクヘッジをしよう

今回は、貿易取引にまつわる代表的な4つのリスクについてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。異なる国同士の売買取引の場合、「商慣習や文化が異なること」「輸送距離が長いこと」などを理由に発生するリスクがあることをご理解いただけたのではないでしょうか。いずれも貿易実務に携わる方の基本として、覚えておいてくださいね。

「シゴ・ラボ」では、貿易取引のリスクを回避する方法をはじめとして、貿易実務で役立つ記事を多数ご紹介しています。今回ご紹介したその他の関連記事も、ぜひ参考にしてみてくださいね。

貿易業界で働くための貿易用語チェックリスト【入門編】

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参考サイト

 

みんなの仕事ラボ(シゴ・ラボ)は、働くすべての方々に向けたキャリアアップ、スキルアップのためのお役立ちサイトです。
「仕事はずっと続けるつもりだけど、このままでいいの…?」「何かスキルを身に着けたいけど自分には何が向いているか分からない」「職場でこんなことがあったけど、これって普通?」など、お仕事をする上でのお悩みや困ったをお助けするヒントやちょっとしたアイデアをお届けします。