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2016/01/18

貨物海上保険の保険条件を分かりやすく解説!

著者: パソナ キャリアコーチ(貿易担当)

貨物海上保険の保険条件を分かりやすく解説!

貿易取引の運送上のリスクをカバーするために、重要な役割を果たすのが「貨物保険(貨物海上保険)」。今回は、貨物保険の「保険条件」について、分かりやすくご紹介します。

保険の詳細内容は保険会社等に確認する必要がありますが、貿易事務に携わる方は、まずは基本的な知識を押さえておきましょう。

3種類の保険基本条件

貨物保険(貨物海上保険、外航貨物海上保険)は、国際間の輸送中に貨物が何らかの事故によって損害を受けた場合、保険会社に損害額を補填してもらうためにかけるものです。

貨物保険の対象とする損害内容(=担保範囲)は通常、ロンドンの保険業者協会が制定した保険条件「I.C.C.約款(Institute Cargo Clausesの略/協会貨物約款)」に則っています。

I.C.C.約款は、1963年、1982年、2009年に改訂されていますが、新旧どちらも使用することが可能。日本では、かつて1963年版の旧約款を採用するのが主流でしたが、年々、2009年版の新約款で付保する会社が増えてきているようです。

旧約款と新約款、いずれも3種類の保険条件が設定されています。ここでは最新の事情に合わせて、新約款の3条件の内容を簡単にご紹介し、そのあと、具体的にどのような危険が担保範囲になるのか一覧表で見ていきましょう。

① I.C.C.(A)条件

もっとも担保範囲の広い条件。海上危険だけでなく、荷役中の事故など輸送中の危険すべてを担保する条件です。家電や機械類、その他製品に広く使用されています。
*旧約款、1963年版のオールリスク(A/R)条件(All Risksの略/全危険担保)にほぼ相当

② I.C.C.(B)条件

海水、湖水、河川の浸水による水濡れ損害(雨・雪による水濡れ損害は含まれません)、火災、爆発、座礁、衝突などの危険をカバーする条件。小麦やとうもろこしなどの穀類、豆類、飼料など、バラ荷貨物(包装されないで大量に輸送する貨物)で使用されています。
*旧約款のWA条件(With Averageの略/単独海損担保、分損担保)にほぼ相当

③ I.C.C.(C)条件

もっとも担保範囲の狭い条件で、船の座礁や転覆など航海を続けることが危うくなる危険のみカバーしている条件です。I.C.C.(B)条件と異なり、水濡れ危険がカバーされません。鉱物や木材、鉄屑など、損傷の危険が小さい貨物に使用されています。
*旧約款のFPA条件(Free from Particular Averageの略/単独海損不担保)にほぼ相当

航空運送はI.C.C.(A)のみ

貨物保険は貨物“海上”保険とも呼ばれることも多いのですが、“航空”運送もカバーしています。ただし、航空運送の場合は、原則的にI.C.C.(A)、またはA/R条件のみとなっています。

航空運送はI.C.C.(A)のみ

詳しくは、契約先の保険会社の公式Webサイト等でご確認ください 。

*1 旧約款(WA条件)の担保範囲は、海水による水濡れ損害のみでしたが、新約款ICC(B)では湖や河川の水濡れ損害も含まれます。
*2 積込・荷卸し中の水没・落下等による一個ごとの全損は、旧約款(FPA条件)では担保範囲でしたが、新約款ICC(C)では含まれていません。


注1:共同海損と単独海損
航海中の船舶に沈没などの共同の危険に遭遇したとき、その危険を回避するために積んでいる貨物の一部を投棄するなど船舶と貨物全体の保全を行うことがあります。このとき、損失を受けなかった荷主が共同してその損害を負担するものを「共同海損」といいます。対義語の「単独海損」は、特定の被保険者の貨物に発生した損害を指します

注2:全損と分損
単独海損には、損害状況によって、「全損」と「分損」に分かれます。全損は、貨物の「全部」が、分損は、貨物の「一部」が滅失、破損などで価値を失った状態を指します

戦争保険とストライキ保険

上図をご覧いただくと分かる通り、輸送中の危険の中には、I.C.C.(A)条件(旧約款のオールリスク条件)でも、損害を担保できないものが2つあります。それが、戦争危険(War Risks)と、ストライキ危険(S.R.C.C Risks/Strike [ストライキ]、Riot [暴動]、Civil Commotion [騒乱] の略)。これらの危険を担保する保険は、特約扱いになります。

一般的に「貨物保険をかける」というと、先ほどご紹介した「I.C.C.3条件のどれか+戦争保険+ストライキ保険」が付保されますが、3条件のいずれを選ぶか、戦争保険やストライキ保険をかけるのか等の方針は、取引内容や会社によって異なります。わからない場合は、社内で確認するようにしましょう。

 

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参考サイト:

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